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最高裁判所第三小法廷 昭和23年(れ)1738号 判決 1949年12月13日

主文

本件各上告を棄却する。

理由

弁護人河俣良介の上告趣意は、末尾に添附した別紙書面記載の通りである。

弁護人河俣良介上告趣意第一点について。

しかし所論仮処分命令の効力発生の時期について審理をとげなくとも、挙示の証拠により判示事実を認め得るのであるから所論のような審理不盡の違法はない。なお証拠調の限度は原審の自由裁量にまかせられているのであるから原審において所論多羽田武義を証人として喚問する必要はないと認めこれを喚問しなかったとしても審理不盡であるとはいえない。論旨は結局独自の見解を立てて原審の手続を攻撃するにすぎないから、採用に値しない。

同第二点について。

しかし物件の引渡しは該物件所在場所でも実行できるもので必ずしも運搬した上でなければできないものではないから本件物件が多数多量であったとしても判示期間内に引渡しを完了することはできないとはいい得ない。そして原判決は「翌六日頃から同月九日頃迄の間に数回に亘り右物件の引渡しを受け」と認定しているだけであって運搬して引渡しを受けたことは認定していないし、被告人が判示物件を右期間内に引渡しを受けた事実は原判決挙示の証拠によって認め得るものである。論旨は原判決が証拠として挙示しない証拠を引き独自の見解を立てて原審の採証法則違背を主張するのであるが証拠の採否は原審の自由裁量に属するところであり所論飯塚善助の他の事件における公判廷の供述を証拠として事実を認定し、所論の証拠を採用しないからとて何等採証法則に反するところはない。論旨は理由がない。

同第三点について。

しかし原判決は相被告人高玉治及び原審相被告人松野六三郎が被告会社の業務に関し一般会計の外特別会計等の秘密会計を設け不正行為により昭和二一年一〇月から同二二年八月までの間葡萄糖の移出数量の一部を故意に政府に報告せず其数量に相應する物品税を逋脱したことを認定したものであるが、既に物品税を免かれた事実がある以上は其不正行為は所謂逋脱に該当し物品税法第一八條一項又は第二項を適用して処断すべきものである。同法第一九條第一項第一号は物品税を不正に免れ又は免れようとした場合でなく、他の目的を以て虚偽の申告を行ったような場合に適用される一種の秩序罰的な規定と解すべきものであることは同法第一八條は逋脱金額を標準としているのに反し同法第一九條は一律に十万円以下の罰金とした趣旨からもこれを知ることができる。從って論旨は理由がない。

よって旧刑事訴訟法第四四六條により主文の通り判決する。

以上は裁判官全員一致の意見である。

(裁判長裁判官 長谷川太一郎 裁判官 井上 登 裁判官 島 保 裁判官 河村又介 裁判官 穂積重遠)

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